我が家で生まれ育ち、子を産み、乳牛として

頑張ってくれていた「巻き爪ちゃん」が、

約半年前に、その名前の通り、巻き爪で足が悪くなり

三谷牧場の乳牛お母さんを卒業し、

雫石の中屋敷牧場さんで再肥育してもらい

この度「巻き爪ちゃんのお肉」となった。

それを、肉の卸専門の荻澤さんが、

「ちゃんと、大事にお料理してくれるシェフと、

そのお料理をちゃんと召し上がって下さるお客様がいるお店」へ配送してくれた。

そして、巻き爪ちゃんがたどり着いたお店が

「パッソ ア パッソ」の有馬シェフの所だった。

東京都門前中町の心がこもった素敵なお店だ。

有馬シェフが

「僕は、このお肉が生前はどんな場所で育ち、何を食べて、どんなふうに暮らしてきた

 のか、そんな事を考えながら、巻き爪ちゃんを考えながら料理する。

 僕の仕事は、この子に最大限の敬意を払って、美味しい料理にして、

 食べてくれる人に幸せと、巻き爪ちゃんを届けることだ」

と、おっしゃった。

巻き爪ちゃんは「生きていた」のだ。

半年前まで、私の目の前で、ヒョコヒョコと巻き爪足をかばいながら

お山を登っていたんだ。

だから、有馬シェフのこのお言葉が本当にありがたかった。

東京って、すごくバッチリ決まり過ぎていて、

かっこよすぎて、きっとお皿の上のお肉が

巻き爪ちゃんという牛だった事に、気が付きにくい街だから

有馬シェフのような気持ちをお持ちの方にお料理してもらう事が

今の私に出来る最良のお葬式なのだった。

お料理に出てきた、すね肉の煮込み料理には

あの「巻き爪」で苦しんでいたであろう、足の骨が付いていた。

それを持ち帰り、三谷家の子供達に見せた。

「巻き爪ちゃんの骨、巻き爪ちゃんを覚えてるよね?」

「うん。山登るの下手な子。これ、巻き爪ちゃんの骨?僕、牧場に埋葬してやろう。」

「どこに?山の上がいいかな?」

「いや、あそこは、あんまり牛達が来ないから、きっと寂しいよ。」

「じゃあ、栗の木の下は?」

「う~ん、あそこは、栗のイガが落ちてきて、きっと痛いよ。

 よ~く考えて埋めてあげるの。喜びそうな場所!」

 

牛はみんな、シンプルに生きていると思う。

欲張りさんがいない。ずるい奴がいない。いじわるはちょっといるけど、

いじめに悩んでいる子はいない。

皆、草を食み、子を産み、お乳を出し、

三谷家を思いやってくれて、ひたすらに美しい。

 

ねえ、巻き爪ちゃんはどこがいいかな?

優しい巻き爪ちゃん、今まで本当にありがとう。