出産予定日を10日程過ぎている。
イーのおっぱいがポンポンに膨れ上がり、子牛の誕生を待っている。
子牛部屋も綺麗にして、フカフカの藁を敷き詰めた。
「それにしても、まだ産まないね。」
毎日毎晩、今か今かと待ちわびて、待ちくたびれてしまった。
産みそうな気配が出てきているから、本当にもう間もなく産むだろうと
楽観視しつつも、予定日を大幅に越えている事に、密かな不安を覚えていた。
そして、昨晩
夜の搾乳作業を終える頃には
乳頭からポツポツとお乳が滴り始めていたので
「絶対、今晩産むぞ!!」と、何時であろうと駆けつけられるように
徹夜の覚悟決めた。
ちょうど、ドシャ降りの雨が降ってきた。
夜9時、イーが立っている。立っているうちは、産まないよね。
夜11時、イーが足をピンと伸ばしていた。きっと陣痛が始まったんだ。
夜12時、破水したようだ。いよいよ生まれるか!?
夜2時、破水から時間がかかり過ぎている。
夜3時、子牛のつま先が見えた。頭が出てきたら、そこからはスグだ。
イー、頑張れ!
ところが、子牛のつま先が、今まで見たことないくらい大きい事に気が付いた。
「こ・・これって、イーは産めるのかな!?」
2児を産んだ経験がある私は、思わず自分の下腹に手を当ててしまった。
この大きさは絶対無理だよ!!産みの苦しみ回顧録。
「どうしよう、どうしよう」と、狼狽えていたら、
搾乳のお手伝いをしてくれているKおじさんがやって来た。
暴風雨の中、傘をさして、片手運転で自転車をこぎながら、やって来た。
傘がひっくり返って、お椀のようになって、まるで役に立っていなかった。
「こういう時は、イーに任せるんだ~。」と、Kおじさんが言うので
ひとまず家に戻る事にした。
しかし、わずか30分後の
夜3時30分、Kおじさんから招集がかかった。「作戦変更だ~!」
子牛のサイズがあまりに巨大なので、これは引っ張らないと無理という判断で
少しだけ出ている子牛の足にロープをかけて
Kおじさんと夫が、イーの呼吸を見ながら、懸命に引っ張った。
午前4時30分、イーから引っこ抜かれるように、子牛が生まれた。
とんでもない巨体だった。
子牛よりも、まずイーの方が心配になった。
前に、マルという牛が出産の際に腰の神経を傷つけて、
立てなくなって死んでしまった事があった。
その記憶が蘇り、イーに万が一の事が想定されて
心臓がバクバクした。
イーの足は伸びきって、ダラリと横たわっている。
立とうという素振りは無く、
疲れ切って、かつ神経が高ぶっているのが分かった。
もう駄目だと思った。
きっと、マルと同じ運命なんだって、
なんでこんなに巨大な子が生まれてきたのだろうかって
小柄なイーの身体に負わせてしまった運命、どうしようって思った。
そして午前6時30分、イーが立ち上がった!!!!
「よっしゃ!よっしゃ!凄いぞ、イー!!お前、タフやな~~~!!!」
搾れずにいた、初乳を搾って、巨大な子牛に飲ませてあげた。
巨大なくせに、500mlくらいしか飲まなくて拍子抜け。
ああ、本当に良かった・・。
長い夜だったけど、イーも巨大子牛も無事で、本当に良かった。
イー、お前本当にタフな子だね!!