廃用牛なんて言わせない

牧場を始めた13年前は
想像もしていなかった事の1つに
「乳牛の最期」がありました。
今年、牧場歴13年目を迎える我が家には
創業当初から、いつも一緒に頑張ってきた13歳の牛達がいて
近年、彼女達は乳牛としての役目を終えなくてはならない
時期になっています。
妊娠出来なくなったのです。
牛も子を産まなければ、お乳が出ません。
だから、受胎出来なくなるという事は
三谷牧場にはいられなくなる、という事でした。
子牛の頃から一緒でした。
創業当時のおぼつかない私達を励ましてくれた牛達です。
一般的には、乳牛の役目を終えた牛達は「廃用牛」として
出荷されて、ミンチ肉やペットフードになるのだそうです。
「この子が、そんな安い扱いを受けるの?」
私達の中では、特別な牛達です。
簡単に「はい、出荷」とは出来ませんでした。
ごまかし、ごまかし、ズルズルと飼い続けておりましたが、
その後の進路を考えると、何も思いつかず悩みました。
そんな中で、雫石の肉牛肥育農家の中屋敷さんと
肉の販売をしている荻澤さんに出会いました。
「頑張ってきた牛達を、再肥育して然るべき人達に
 美味しく食べてもらうのが、何よりなのではないでしょうか?」と
荻澤さん達からご提案頂いた時は
正直、本当にそうだろうか?
牛にとっては、ここを去って、死ぬことには変わりないのに・・と
半信半疑でした。
しかし、このまま知らない人の手に渡って
肉になったとしても、誰も知らない牛として
感謝もされずに食べられるのかな、と思うと
中屋敷さんと荻澤さんに託してみようと思いました。
そして、5か月前に
30番の牛が中屋敷さんの所へ行きました。
この子は、まだ7歳でしたが、
既に受胎できなくなってしまった子でした。
「大事に育てます」と、
そして実際、大事に育ててくれた中屋敷さんが
いよいよ「出荷時期」と判断したのが
つい先日でした。
そして、荻澤さんが
「この肉は特別に扱って下さい!」と熟成士さんに
頭を下げて下さったそうで、
30番の肉は
松坂牛などと並んで、一番条件の良い熟成庫に
眠ったのだそうです。
さらに、30番を調理してくれたのが
有馬シェフという、信頼ある素晴らしい方でした。
有馬シェフは「しびえ料理」の第一人者という方で
肉の油も筋も、骨の髄まで、エキスまで
「絶対に無駄にしない!」と、大事に、大事に扱って下さいました。
30番のお肉がメインディッシュとして
運ばれてきた時に夫が
「あ、三谷牧場がメインや・・」と
感慨深げにつぶやきました。
我が家の主力商品である乳製品は
サブ的役割が多いので、メインディッシュになったことは
今まで1度もありませんでした。
30番は、メインディッシュとして、
皆様に「いただきます。」と言われて食べてもらえたのです。
30番という牛がいたのだ。
彼女のお肉なんだ。
こんなふうに、思ってもらえる家畜は
それほど多くありません。
だから、この時初めて
30番に敬意を表せたな・・と感じました。
それもこれも、中屋敷さんや荻澤さんや
有馬シェフ、そしてこのチャンスを与えてくれた
ヌッフデュパプの皆様のお蔭でした。
これから、13歳の牛達が
続々と旅立って行きます。
また皆様のお力をお借りして
牛達のプライドを守りたいと思います。
これはとても悩ましい問題です。
擬人化しすぎてはいけないのですが、
牛達の気持ちになって進めていきたいと思います。
そして、今、一緒にいられる時間が
いかに大切な時間なのかを
噛みしめたと思います。
これに関しては、牛だけではなく
家族や友人、お仕事つながりの方達にも
共通して、今、一緒にいられる事を
ありがたく思っていこうと思います。