さよなら、アニマル。

根性者って言えば、なんだ?

ど根性ガエル?日本軍?それとも、巨人の星

色々考えた挙句、彼女の名前は

アニマル浜口さんからとって「アニマルさん」となった。

彼女は、数年前の猛暑が続いた夏の終わりに

牧草地で倒れてしまった。

夏の疲れに加え、質の悪い細菌性の乳房炎に侵され

外で遊んでいた次男が発見した時には、もう息も絶え絶えで

獣医さんが駆け付けた時には

「起立不全。もうダメかもな。とりあえず、この場で

 点滴を打ってみますが、もしかしたらダメかも・・。」との事だった。

ぐったりと虚ろな目で倒れている彼女を見た時は

正直もう駄目だろうと、皆がそう思った。

だけど、次の瞬間、彼女は立った。

渾身の力を振り絞るように立ち上がり、

仲間たちに支えられるようにして、よたよたと牛舎へ向かったのだった。

点滴を用意して戻って来た獣医さんが

「・・え?嘘でしょ?」と我が目を疑い、

一歩一歩牛舎へ近づいて行く彼女を呆然と見ていた。

そして、一言・・

「すげえ、根性だ・・。」とおっしゃった。

そんな事があり、彼女には「根性者」にふさわしい名前を

つけようという事になり、

最終的に「アニマルさん」になった。

12月21日

アニマルさんは乳牛としての役目を終えて、雫石の中屋敷さんの牧場へと旅立っていった。

12歳だった。

中屋敷さんと荻澤さんが大きなトラックで

牧場にやって来るという事は

別れの時がやって来た・・という事だ。

もう、何度目かの別れの時間を経験しているから

私はきっと泣かない。

この2人に託す事が、牛達にとって最善の道である。

絶対の信頼を置いている、このお二人なんだから。

そんな事を考えながら、同世代同士

子育て談義なんかしたりして・・。

アニマルさんは、とても落ち着いていた。

さすがだよ、アニマルさん。

狼狽えたり、暴れたり、悲しんだりすることなく

じっとトラックで大人しくして、さすが、肝の据わった女性だな。

そんな事を考えながら、やがて、トラックはゆっくりと発車した。

私は泣かなかった。

トラックが牧場を出る1本道を登って行く。

トラックが見えなくなる。

そして旦那さんがつぶやく。

「行っちゃったな・・。」

そして続けて「昼飯に、するか?」と言った。

その瞬間、私の涙腺が砕けてしまった。

「うっうええ・・・。ま、まずお掃除して・・から・・ひる、ひる・・」

もう涙がボタボタ落ちてきて、両手で抑えても、やっぱり止められなかった。

しかし、しかし、一本道を登っていったトラックが

なんと、バックして戻って来たのだ!

対向車が来たためにバック。荻澤さんと中屋敷さんが

仲良く運転席の窓からこちらを見ているではないか!?

「・・え~~~!!!いや!あの!目が痛くって、ゴミ!!」

そんな事を慌てて口走ってしまった。

多分・・泣いてしまった事は、お二人には気づかれていないはずである・・・。

ああ、アニマルさん。あなたのように、凛として生きていけない私です。

今まで、かっこいい姿をみせてくれて、本当にありがとうございました。