皆で脱走した

奥中山の空にもいわし雲が広がっている。
いよいよ秋です。
肌寒くなり、牧草の生育もいまひとつとなり、
牛達は草のある部分を求めて牧場中を練り歩くようになる。
先日、来客があり
お茶をしながらお客様と「あ〜だ、こ〜だ」と
しゃべっていて、フと窓の外を見てみたら
いつもと感じが違う。
牧柵と牛達の距離感が、なんか微妙なのである。
「??まあ、いいか。」と、
再び「あ〜だ、こ〜だ」しゃべって
窓の外を覗く。
明らかに柵と牛の遠近感が間違っているようだ。
柵が前に見えて、牛がその後ろにあるはずが
牛の後ろに柵があるように見える。
「??まあ、いいか・・・。」
そして再び覗いた時には
牛が窓のすぐそこに立っていた。
「???」
どうやら、柵の一部を閉め忘れていたようで
牛達は青草を求めてワラワラと出てきてしまったのだ。
しかも全員!

家の周りを牛達に包囲されてしまった。
お客様の軽自動車は牛の好奇心の対象となり
ベロン、ベロンと舐められている。
散々になった牛達を柵の中へ戻そうと
「お〜い、みんな戻って〜」と追いかけてみたけど
牛は家の周りの豊富すぎる雑草が欲しくてたまらないのだ。
皆「我慢できませんっ!」という風に
わあ〜っと駆け足で戻って来てしまう。
・・・収集がつかないので・・・放っておこう・・。
そんなこんなで、暫く自由にお食事をしてもらう事となった。
皆、思い思い動き回ってムシャムシャと美味しそうにお食事を楽しんでいた。

途中、敷地から公道に出る1本道を登って行こうとしたので
「流石に、そっちは行っちゃだめだあああ〜〜〜〜!」と
呼びかけたら、牛達はゆっくりと振り向いて
一言「も〜」
と言って、素直にこちらに戻って来てくれた。
10年近く一緒にいるんだもんな。
日本語の1つや2つ、分かるのかもしれない。
満足いくまでたっぷり青草を食べた後は、
牛達はゆっくり、ゆっくりと牧場に戻って行った。
とても気持ち良さそうに戻って行った。