三谷家は揃って音痴だ。
リズム感、音程共に、大幅に外れた鼻歌などは
ほぼ原形を留めないというか
何を唄っていたのやら自分でも分からなくなる程だ。
そんなだから、牛と共に暮らし始めて16年間
牛達にまともな音楽を聴かせた事がなかった。
そんな三谷牧場に、突如として現れたのが
「タオライアー奏者Nonoさん」と「タオライアー製作者Yujiさん」ご夫妻だった。
タオライアーとは、大きな木を波模様に削った盤に竪琴のように
弦が張られている楽器で、そこから響き渡る音と振動が
心身を癒す効果があるという。ちなみに音階は「レミラシ」の4つ。
長い冬の間、牛舎で退屈している牛達の話をしたら、Nonoさんが
「牛さん達のために、牛舎でタオライアーを奏でましょうか?」と
提案して下さったのだ。
そして「ふぉわわわ~~~ん・・・」とタオライアーの音色が牛舎に
響く事となった。
丁度、ご飯中だった牛達は、初めのうちは草(ご飯)に夢中だった。
タオライアーの音色は本当に美しい。
次第に1頭、また1頭と顔を上げ、お椀型になっている両耳を
ひょこっとNonoさんの方に向けて、じっと聴き始めた。
食欲に火がついて、ガッついていた表情が、だんだん柔らかなものになり
全員がタオライアーの音色と響きにすっぽり包まれて
とても、心地よさそうな穏やかな顔つきになったのだ。
牛達のこんなに心地よさそうな表情を初めて見た。
牛達も美しい音が好きなんだな。
タオライアーの音の波動は、まるで身体に浸み込むように
体の中の水分を震わすように、伝わってくる。
牛達も、きっと同じような感覚だったのだろう。
演奏が終わってしまうと、牛達はゆっくりと顔をかしげて、
「もう終わり?もっと聴きたいなあ」と言った。