新年あけましておめでとうございます。

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2020年、今年もどうぞよろしくお願い申し上げます!

わ~い、わ~い、新年だよ~♪・・と

受かれているのは、人だけです。

牛達は平常心で、むしろ、はしゃぐ三谷家を

若干冷めた目でみつめているようです。

昨年12月19日が出産予定日の牛がいますが、

晦日には、まだちっともその気配もなく

「う~ん、この子は年をまたいでしまうね~。」と

約10日も予定日から遅れているのだから

ちょっと焦ってもいい頃なんだけど、

牛を見習って、呑気に構えておりました。

ここまで来たら、元旦ベビーになってくれ~。

晦日紅白歌合戦でも観て、ぬくぬく過ごしたいよ~。(本音)

ところが・・31日の夜、まさに年越し最中に

出産が始まってしまいました。

ぴゅ~ぴゅ~猛吹雪の中、牛舎で子牛の介抱をしながらの

「ハッピーニューイヤー!」

牛舎の壁が暴風でドッカン、ドッカン音を立て祝福してくれました。

生まれた子牛は元気いっぱいで、お母さん牛も

すぐにモリモリご飯食べ始めました。

お正月(まさに)早々、縁起の良い事だ~!

2020年、幸先の良いスタートです!

さよなら、アニマル。

根性者って言えば、なんだ?

ど根性ガエル?日本軍?それとも、巨人の星

色々考えた挙句、彼女の名前は

アニマル浜口さんからとって「アニマルさん」となった。

彼女は、数年前の猛暑が続いた夏の終わりに

牧草地で倒れてしまった。

夏の疲れに加え、質の悪い細菌性の乳房炎に侵され

外で遊んでいた次男が発見した時には、もう息も絶え絶えで

獣医さんが駆け付けた時には

「起立不全。もうダメかもな。とりあえず、この場で

 点滴を打ってみますが、もしかしたらダメかも・・。」との事だった。

ぐったりと虚ろな目で倒れている彼女を見た時は

正直もう駄目だろうと、皆がそう思った。

だけど、次の瞬間、彼女は立った。

渾身の力を振り絞るように立ち上がり、

仲間たちに支えられるようにして、よたよたと牛舎へ向かったのだった。

点滴を用意して戻って来た獣医さんが

「・・え?嘘でしょ?」と我が目を疑い、

一歩一歩牛舎へ近づいて行く彼女を呆然と見ていた。

そして、一言・・

「すげえ、根性だ・・。」とおっしゃった。

そんな事があり、彼女には「根性者」にふさわしい名前を

つけようという事になり、

最終的に「アニマルさん」になった。

12月21日

アニマルさんは乳牛としての役目を終えて、雫石の中屋敷さんの牧場へと旅立っていった。

12歳だった。

中屋敷さんと荻澤さんが大きなトラックで

牧場にやって来るという事は

別れの時がやって来た・・という事だ。

もう、何度目かの別れの時間を経験しているから

私はきっと泣かない。

この2人に託す事が、牛達にとって最善の道である。

絶対の信頼を置いている、このお二人なんだから。

そんな事を考えながら、同世代同士

子育て談義なんかしたりして・・。

アニマルさんは、とても落ち着いていた。

さすがだよ、アニマルさん。

狼狽えたり、暴れたり、悲しんだりすることなく

じっとトラックで大人しくして、さすが、肝の据わった女性だな。

そんな事を考えながら、やがて、トラックはゆっくりと発車した。

私は泣かなかった。

トラックが牧場を出る1本道を登って行く。

トラックが見えなくなる。

そして旦那さんがつぶやく。

「行っちゃったな・・。」

そして続けて「昼飯に、するか?」と言った。

その瞬間、私の涙腺が砕けてしまった。

「うっうええ・・・。ま、まずお掃除して・・から・・ひる、ひる・・」

もう涙がボタボタ落ちてきて、両手で抑えても、やっぱり止められなかった。

しかし、しかし、一本道を登っていったトラックが

なんと、バックして戻って来たのだ!

対向車が来たためにバック。荻澤さんと中屋敷さんが

仲良く運転席の窓からこちらを見ているではないか!?

「・・え~~~!!!いや!あの!目が痛くって、ゴミ!!」

そんな事を慌てて口走ってしまった。

多分・・泣いてしまった事は、お二人には気づかれていないはずである・・・。

ああ、アニマルさん。あなたのように、凛として生きていけない私です。

今まで、かっこいい姿をみせてくれて、本当にありがとうございました。

 

 

 

冬の到来

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きゅっと目をつむる。

身を縮めて小走りで帰って来る。

牛舎の中は、いくらか暖かい。

私と牛の共通点「寒いの苦手」

岩手の冬は、とにかく厳しくて、内臓が震える寒さだ。

牛は体も大きいし、体温も高めだし

なによりイギリス原産(冷涼なイメージ)という強みがありそうなものだけど

冷たい風の前では、私と同じ顔するから

愛しい。

長い冬が始まって、

私も牛も、ちょっぴりブルーになっている。

この冬も一緒に乗り切ろうぜ!

 

6が好きか。

中学校2年生の長男は、正真正銘の理系脳の持ち主だ。

普段から「この子は三谷牧場は継がないだろうな」と

感じられる場面が多々あり、むしろ「継がせない方がいいぞ、これは・・」

なんて感じられる場面も多々ある。

小さな頃からモノづくりが好きで、レゴブロックなど

結構天才的なところがあるので、適性のある方へ進んで欲しいと

思っている。

そんな長男が、突然こんな事を話し始めた。

「お母さん、6ってさ、いいよね~💛」

ん?なに?何が?

「いや~、だからさ、6って数字は、なんかこう・・魅力的だよね!」

若干興奮して話し続ける息子を

不覚にも奇異の目で見てしまい「いかん、いかん。」と思い直す。

「6のどこがいいの?」

「え!?だってさ、貫禄もあるし、割り算していく事を考えると

 潔い感じもあるじゃん?僕はね、案外3が嫌いなんだ。お母さんは何がいい?」

「え、え、う~んと。。。4」

「あ~!4っかあ~!そっか~!」

この一連の会話をもってして、この子はいつか牧場を巣立ち

どこかで理系脳をフル回転させて生きていくのだろうと知れた。

ちなみに、長男は

「僕ね、放物線ってロマンチックで好きだな~」とも語っている。

長男には世界はどんなふうに見えているのかな~?

面白い脳みそしてる。

長男はきっと、牧場も牛も、ヨーグルトも数字で置き換えられるに違いない。

私は数字の何かな~?

Bean47受賞しました

全日本・食学会の上柿元シェフから突然お電話をいただいた。

「お~ひさしぶり~で~す!」

上柿元シェフは、フランス料理界の重鎮である。

我が家が金のヨーグルトを作り始めた時に、ひょんな事から

お知り合いになり、今までずっと、気にかけてもらっている。

大好きな方の1人だ。

とにかく、上柿元シェフが大好きなのだ。

料理界のレジェンドなのに、ものすっごく、気さくで、朗らかで、

我が家の子供達は、このレジェンドの双肩に

「うんこ~!うんこ~!」と叫びながら飛び乗った事がある。

その時も「よかよ~!わははは!」と笑い飛ばして下さった。

お会いすると元気が出る、太陽みたいなお人柄だ。

そんな方からの突然のお電話。

もう、それだけで舞い上がる程に嬉しいのに、

今回はさらに嬉しい出来事が・・。

2019・全日本食学会生産者大賞「Bean47」に選出されたというではありませんか!?

生産者、料理人、流通関係者、食に関する機械技術者、食関連の研究者などの新たな活動・技術・人材の発掘・支援を目的とした賞だそうな。

上柿元シェフのご推薦により、我が家が全国から選ばれた9名のうちの1人となったのでした。

そんな事で、豆のマークが入っている表彰状を頂いた。

誉です。今までジャージー牛の「いいところ」を大切にして酪農を経営していこうと

地味にやってきた事を表彰して下さったのだ。

三谷家の体の中を通る1本筋にぶれが出ないように、これからもますます頑張ろうという気持ちだ。表彰状を手にする夫は、これ以上あげれません!というくらい口角を上げて笑顔である。喜びが溢れ出ている。

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でも、何よりも嬉しかったのは、やっぱり

上柿元シェフのお声が聞けたことなんだよな。

「元気でやってますか~!?」との問いに

「たった今!めっちゃ元気になりました!」とお答えした次第でした。

才能がなくたって!

昨今の和牛ブームで、和牛子牛が不足しているそうで

我が家のジャージー牛に「100%和牛受精卵」を人工授精している。

ジャージーママから黒毛和牛の子牛が生まれる。

イギリス人から日本人が生まれたよ~、みたいな不思議な違和感が

感じられるが、全農さんからのご依頼によるものである。

生まれた和牛子牛は、生後10日ほどで全農さんが引き取りにいらっしゃるので

我が家とは、ほんの僅かなお付き合いとなる。

10日ほどのお付き合いとはいえ、哺乳したりなど、お世話するのだけれど、

今回生まれた和牛ちゃんは、今までに無いパターンの子だった。

生まれて30分も経たないうちに

ぶるぶると4本の足で地面を掴むように立ち上がり

どっかん、どっかんと子牛部屋の壁に体当たりして

「な、なんだコイツは~~!?」と驚愕した。

パワフル!パワフルすぎる!部屋が壊れる、ドリフのように!!

 そして、母牛が1番最初に出してくれる

「初乳」を飲ませてあげようとした。

通常の牛乳とは明らかに異なる黄身色のトロリとした初乳。

これには母牛から子牛への最初のプレゼントである免疫力が詰まっていて

出来ることなら生後1時間以内に、必ず飲まないといけないのだ。

「よ~し、よし。ほ~ら初乳だよ~」

普通、生まれたばかりでも、子牛は本能で初乳に食いついてくるのだが

この和牛ちゃんは、あっちこっち顔をふらつかせて

ちっとも喜んでいないみたい。

それっと口の中に半ば無理やり哺乳瓶を突っ込めば、気が付いて飲むかと思えば

ちゅ~ちゅ~ちゅっ!ぼえええええ~~~!!

と大袈裟に横を向いてしまう。

何度やっても「ぶへえええええ~~~!!」とそっぽを向く。

う~ん、なぜだろう??

あんなに「暴れる君」だったのに、お腹が空いていないのかな・・?

以前、先天的障害があって肛門が開いていなくて、お乳を飲めずに

死んでしまった子牛がいると聞いたことがあるけれど・・・それかなあ・・?

しかしながら、翌日にはちゃんと立派なう〇こが発見された。

目が見えない?もしかして?

しかしながら、目の前で手をヒラヒラ振ったところ

これまた大袈裟にも程があるくらいドンガラガッシャ~ン!と飛び退いてみせた。

う~ん、なんだこの子は・・?

それから毎朝晩1時間弱かかって和牛子牛ちゃんにミルクを飲ませた。

飲むというか、偶然流し込むというか、

チュウチュウと吸い付いている割には、全然飲めていない。

そのうち「ぶへえへへえへっへ~!!!」と横を向く。

飲んでもらわないと、衰弱してしまう。

哺乳瓶と和牛ちゃんの首根っこを掴んで

曲芸師のように「ぶへええ!」と横を向くのに合わせて哺乳瓶を

操縦する。「よっ!」「ほいっ!」「そらきたっ!」と

子牛と共にクネクネ動き回る日々。

そのうち、和牛子牛ちゃんの「飲み方」が少しづづ上手くなってきた。

お腹は空いているらしいが、上手く飲めない。

つまり・・「へたくそ」なだけだったのだ。

おっぱいを飲むのが下手って、あるんだな~。

そんな事でいいのかな~。

必死な顔して、効率悪く吸い付き

思っているよりもミルクをゲットできず、

さらに神経質な性格が重なり

「ぶべべべぼへえええ~~!」と横を向く。

でも、まあ、それでも日々進歩していってる。

ちょこっとづつ、上手くなってる。

才能が無くても、必死にトライする姿に

なんか、私の方が「頑張ろう!」って気になるんだよな~。

 

 

我が家で生まれ育ち、子を産み、乳牛として

頑張ってくれていた「巻き爪ちゃん」が、

約半年前に、その名前の通り、巻き爪で足が悪くなり

三谷牧場の乳牛お母さんを卒業し、

雫石の中屋敷牧場さんで再肥育してもらい

この度「巻き爪ちゃんのお肉」となった。

それを、肉の卸専門の荻澤さんが、

「ちゃんと、大事にお料理してくれるシェフと、

そのお料理をちゃんと召し上がって下さるお客様がいるお店」へ配送してくれた。

そして、巻き爪ちゃんがたどり着いたお店が

「パッソ ア パッソ」の有馬シェフの所だった。

東京都門前中町の心がこもった素敵なお店だ。

有馬シェフが

「僕は、このお肉が生前はどんな場所で育ち、何を食べて、どんなふうに暮らしてきた

 のか、そんな事を考えながら、巻き爪ちゃんを考えながら料理する。

 僕の仕事は、この子に最大限の敬意を払って、美味しい料理にして、

 食べてくれる人に幸せと、巻き爪ちゃんを届けることだ」

と、おっしゃった。

巻き爪ちゃんは「生きていた」のだ。

半年前まで、私の目の前で、ヒョコヒョコと巻き爪足をかばいながら

お山を登っていたんだ。

だから、有馬シェフのこのお言葉が本当にありがたかった。

東京って、すごくバッチリ決まり過ぎていて、

かっこよすぎて、きっとお皿の上のお肉が

巻き爪ちゃんという牛だった事に、気が付きにくい街だから

有馬シェフのような気持ちをお持ちの方にお料理してもらう事が

今の私に出来る最良のお葬式なのだった。

お料理に出てきた、すね肉の煮込み料理には

あの「巻き爪」で苦しんでいたであろう、足の骨が付いていた。

それを持ち帰り、三谷家の子供達に見せた。

「巻き爪ちゃんの骨、巻き爪ちゃんを覚えてるよね?」

「うん。山登るの下手な子。これ、巻き爪ちゃんの骨?僕、牧場に埋葬してやろう。」

「どこに?山の上がいいかな?」

「いや、あそこは、あんまり牛達が来ないから、きっと寂しいよ。」

「じゃあ、栗の木の下は?」

「う~ん、あそこは、栗のイガが落ちてきて、きっと痛いよ。

 よ~く考えて埋めてあげるの。喜びそうな場所!」

 

牛はみんな、シンプルに生きていると思う。

欲張りさんがいない。ずるい奴がいない。いじわるはちょっといるけど、

いじめに悩んでいる子はいない。

皆、草を食み、子を産み、お乳を出し、

三谷家を思いやってくれて、ひたすらに美しい。

 

ねえ、巻き爪ちゃんはどこがいいかな?

優しい巻き爪ちゃん、今まで本当にありがとう。