牛飼いとは・・?

生き物を相手にするのだから、
牧場の仕事って
「ハプニング対応の仕事」とも言える。
毎日、朝晩搾乳の時間になれば
牧草地で過ごしていた牛達が
「搾る時間?」と、
イソイソ、ワラワラと牛舎に帰って来る。
「あまりに牧草が美味しくって止まらない」という時や
牧草地でうっかりお産を初めてしまった時は
別として、大抵必ず全員戻ってくる。
ところが、この前は「イチノコ」が戻って来なかった。
最近は雨が足りなくて、牧草も思うようには伸びていない。
「イチノコ」のお産が近いという話もない。
しかし「イチノコ」だけ、戻っていない。
「なぜじゃ!?」
不安がモクモクと湧き上がって来た。
事故?事件?何?どうして?
モクモクモク・・・。
そして、慌てて捜索に出かけたのだが
なんと、ビックリ!
「イチノコ」は山葡萄のツルに絡まって
身動きが出来ず、孤独な顔をして立っていたのだった。
「・・・え〜・・・」思わず微妙な奇声を上げた。
すると「イチノコ」は「ひひ〜ん・・」と悲しそ〜うな声を出して鳴いたのだった。
大きな瞳が一層うるんでいたようだった。
ちょうどたすき掛けのような恰好になってしまった
「イチノコ」は木々の間で押すも引くも出来なくなったのだ。
牛って頭いいけど、こんな些細な事で動けなくなるんだ〜と、
ツルをヒョイッと外してやると
妙に悠然と牛舎へ歩いていく「イチノコ」であった。
それにしても、どうやったら
山葡萄でたすき掛けなんて器用な絡まり方が
できるのかしら?
牛飼いは「謎飼い」でもあります。

かかが・・

東京からシェフが視察にいらっしゃった。
我が家の乳製品を使って下さっている、
またこれから使いたいなという料理人の方々が
生産現場を見てみたい!どんな人が、どんな所で、どんなふうに
 作っているのかを感じて料理に活かしたい!」と
はるばる奥中山まで来て下さるのだ。
そのお気持ちが、凄く嬉しくて
我が家の牛も人も精一杯の「おもてなし」を
しようと努める。
我が家の乳製品をただの「食べ物」としてではなく
「生き物」のように心を通わせてくれているんだな〜と
思うと、それこそ涙が出るくらいありがたき幸せだ。
だから、あんなに頑張ったのに・・・・。
かかが・・・。
カラスのかか夫妻が・・・・!!!
皆様がご到着になり、
「まずは牛を見に行きましょう〜♪」と
牧草地へとご案内し、
牛と戯れて頂いた。
妻は一足先に工房へ戻り
ご試食頂くチーズやヨーグルトと
チーズ成型実演のための「チーズの素」を
ボールの中に、アイスノンを敷いてセッティングした。
そして、皆様を呼びに牧草地へ・・。
その間10分弱。
皆様お戻りになられて、さあ、実演しますよと、
ボールの中の「チーズの素」をご覧いただいた時
袋がビリビリに破けていた。
そう、犯人は・・
「・・・・!!?かか!?」
「カラスにやられたああ〜〜〜!!!!」
唖然・・。
しかしながら、皆様本当に素敵な方々ばかりで
「気にしないから・・」とおっしゃって頂き
無事に実演を終了。
さあ、試食です・・と
用意してあったチーズ3個が、なんと1個に減っているではないか!?
そうまたしても、犯人は・・
「・・・・!!?かか!?」
「カラスにやられたあああ〜〜〜!!!
 夫婦で2個!!一人1個づつ!!きいい〜〜〜!!!」
人と牛があんなに頑張って「おもてなし」
したのに、かかの奴、めちゃくちゃにして!!
残念無念である。
かかめ、利口な奴だ。
ちょっとの隙を逃さなかったな〜。
かか、今日はいいもの食べたな。
妻の敗北感をよそに、
かか夫妻の「かあ〜。」という
呑気な歌声がこだまするのであった。

放牧開始です!

1年の始まりはお正月・・
ではなく、5月3日
むしろこの日だ!
「放牧初め!!!2015!!!」

桜前線が粛々と北上してくる中、
奥中山だけは、とばされて、先に弘前〜札幌と
開花宣言がなされ、半分いじけていたトコロに
ようやっと奥中山の桜はほころぶ。
遅かったじゃないか〜〜〜!!とちょっと泣けちゃうくらい。
前線最後尾の桜が散るころ、これまたようやっと、
牧草がいい具合に芽吹きだすのだ。
そして・・・
我が家の春1番の行事「放牧初め」と相成るのだ!
牛達は冬中ずっと籠っていた牛舎から解放されて
新緑の大地に駆け出す時、本当に嬉しそうに笑う。
笑ってくれるんだもん。
この瞬間の牛の表情は、この日にしか見られないのだ。
だから、我が家はこの日が1番好きだ。

牛達は皆、大はしゃぎして、
はしゃぎすぎて、お互い見ていなかったのか
うっかり正面衝突している子達もいた。
(そして喧嘩になる)
1歳になる「マップ」は生まれて初めての放牧に
たじろいでしまって、まさに右往左往していた。
マップは何度も牛舎と草地を出入りして
「本当に出ていいの?」と確かめているみたいだった。
20頭の牛達が、それぞれの個性を大発揮して
走り回るのだから、見ていて飽きることはない。
「牛っていいな〜・・。」って、
このお仕事をしてい、本当に幸せだと
思わせてくれる1日でした。

子育て

小学校3年生の長男のクラスでは
最近にわかに
「○○ちゃんは△君が好きなんだよ!」とか
「☆ちゃんが一番もてるんだよ!」など
いわゆる恋バナが多発しているようだ。
親としては「へえ〜」と聞き流しながらも
「うそうそ!?もうそんっな会話をっ!?」と
内心穏やかではないのだ。
「THE・こども」だと思っているんだ、こっちは!!
「え〜、そんじゃ、あんたは誰か好きな人いるの〜〜?」
と波乱含みな母親心を隠して、さりげな〜く探る。
「う〜ん・・。僕はいないけどね〜
 S君はね〜、最近Tちゃんが好きなんだよ。」
そうか、S君はTちゃんか、で?
「それで、最近S君はTちゃんにモテようと思って
 かっこつけてるよ。」
そうか、そうか、S君はかっこつけてるんだ、で?
「S君はかっこいい猫になろうと努力しているよ。」
そうか、そうか、S君は涙ぐましい努力をしているんだ、で?
「だから、S君は猫背、猫舌、猫爪になろうとしているよ。」
・・・・そうか、・・・。
「猫背、猫舌、猫爪???」
「うん、かっこいい猫になってTちゃんにモテたいんだって!!」
多感なお年頃に差し掛かっている子供達・・
時に失敗を重ねつつ大人になるのだろうね・・。
日々はまるで「コント」を見ているようで
とても面白い。
誰か、S君の努力の方向が
もしかしたら間違っているんじゃないかと
教えてあげないのかな。
(大失敗だよ!)

いわて牧場に言いたかった事


必ずだって、知っているつもりだったけど、
私は複雑です。
「いわて牧場」が廃用牛として出荷されたのだ。
今まで12年間我が家で乳牛として頑張ってくれていたけれど、
最近は歳のせいか、種付きが悪く、乳房炎も慢性的で
今日、彼女はその役割を終えて去ってしまった。
牛には幸福を感じてもらい健康であって欲しい。
その上で、出してくれるお乳は滋味溢れる貴重な賜物なんだって、
いつも念頭にある想いが、自信を無くして萎んでいく。
こうして廃用として出ていく牛を見送るのは
実は牧場を始めて12年目になるけれど
初めてだったのだ。
以前、「ゴーゴー」が出荷された時は
放射能検査屠畜という公のルールには抗えなかったという
自分なりの折り合いの付け所があったけれど、
今度は間違いなく、私たちの判断である。
出荷されていく「いわて牧場」を見送った時
「ああ、歳とったな・・」って、つくづく思った。
ちょっぴり白くなった毛色を見ていると
いつだったか「いわて牧場」が急病で鼻から血を流して
倒れてしまった日の事を思い出した。
もう駄目だろうって言われたのに、翌日には
大復活を遂げてムシャムシャと、まあ、よく食べてたなって。
思わず「おい!」って突っ込み入れちゃったよね。
もしも、自分が「いわて牧場」だったら
今まで一生懸命頑張ってきたのに「それはないでしょ!?」って
思うだろうか・・。
「いわて牧場」はピストルで眉間を打ち抜かれて
ミンチ肉などになる。
私は「いわて牧場」をこのまま育て続けてあげる事は
出来ないのだ。
それは経済動物だから・・。
幸せにしてやる、なんて言ったけど・・。
「いわて牧場」や、今後も必ずなるであろう我が家の牛達に
私は「ありがとう」とか「さようなら」とか「ごめんね」とか
色々、どう言ってこの12年間の気持ちを伝えようかと
考えたけれど、通り一遍の言葉じゃ違う気がした。
今、「いわて牧場」に伝えたい事は
「私、悪い人間にならないからね!」という事。
きっと「いわて牧場」は、誰かに食された時に
その血となり肉となるのだ。
その人が悪い奴だったら、
絶対に嫌だろうから。
がっかりするだろうから。
だから、私は生きている限り、
現役の牛達や子供達にも
「悪い奴になんて、絶対にならないよ」と宣言するよ。
お天道様にも、そう誓うよ。

かつおちゃめ

見ちゃった!
カツオさんの別の顔を
見ちゃった!
牛舎のお仕事のアルバイトをしてくれている
ご近所のカツオさんは、東北人らしいぶっきら棒なおじさんだ。
朝5時から
てくり、てくりと徒歩で出勤し、
挨拶もせずに黙々と作業を始める。
作業が終わったら7時半ごろ、
またてくり、てくりと徒歩で帰宅する。
朝一番の雪の上には
踵を少し摺って歩いて出来る
間延びした特徴ある足跡が二筋出来上がる。
カツオさんの往復した跡だ。
その足跡を見る度に
朴訥な表情で1人こまめに働いてくれるカツオさんに
感謝の念が込み上げてくるのだ。
こんなに朝早くから、文句も言わないで
やってくれているのだ、と。
今朝、たまたま二筋の足跡を辿っていたところ、
見ちゃったのである。
間延びした足跡が2〜3回足踏みしたように乱れ、
その先に
かわいいウサギさんの絵が・・・!!!
「あっ、ウサギさん!」
そして、
「あっ、ああっ!KATSUOSA〜N!?]
雪の上に突如として現れた雪兎。
カツオ作「雪兎」意外にも上手。
「KATSUOSA〜N?」
このウサギさんを見た瞬間なんだか妙に
ドキドキしてきたのだった。
あのカツオさんの意外にお茶目な一面を
発見した喜び?戸惑い?
私はカツオさんの事をあまり知らなかったのだという
自己嫌悪?
いずれにしても、この雪兎は
カツオさんの新たな一面を語ってくれている。
カツオさん、これからも末永く
よろしくお願いします。
あと、こっそり心の中で
かつおちゃめ」って呼んじゃった事も
いつか打ち解けて言える日が来るといいなと
思っています。

2015年明けましておめでとうございます


新年明けましておめでとうございます!
今年もどうぞよろしくお願い申し上げます!
2015年になったと思ったら
もう半月が過ぎてしまった・・。
牛達は相変わらずの寝正月で、
ありがたい事に、毎日朝晩、美味しい牛乳を
出してくれています。
お正月は人間だけが
「特別♡」な気分になっているんだな〜と
淡々と平素な顔をしている牛を見るたびに思う。
「じゃあ、今年の初搾り・・」とウヤウヤしくしてみたりすると
「なんですか?」と言いたげな目を向けてくるのだ。

昨年末は、ひょうきんが足の怪我で悩まされていた。
爪が傷んでしまって、立っているのも辛そうで、
普段はバクバクと止まらない食欲が無くなり
とても心配したのだ。
しょんぼり・・少しづつ草を食むヒョウキンを見て
カツオおじさんが
「嘘食いしてら!嘘食いだっけ!これは、まさに嘘食い!」
と鬼の首を捕ったかのような勢いで
ヒョウキンの倦怠感を見抜き
「嘘食い」を連発していた。
2度の治療の末、ようやく快方に向かい
バッチリ治っての年越しに
「今年も皆元気に迎えることが出来て、本当によかったね〜!」と
祝福の拍手をした。
牛達の「なんですか?」という目。
日常の小さな喜びを見つけて、はしゃぐのも
人間だけなのかもしれない。