いわて牧場に言いたかった事


必ずだって、知っているつもりだったけど、
私は複雑です。
「いわて牧場」が廃用牛として出荷されたのだ。
今まで12年間我が家で乳牛として頑張ってくれていたけれど、
最近は歳のせいか、種付きが悪く、乳房炎も慢性的で
今日、彼女はその役割を終えて去ってしまった。
牛には幸福を感じてもらい健康であって欲しい。
その上で、出してくれるお乳は滋味溢れる貴重な賜物なんだって、
いつも念頭にある想いが、自信を無くして萎んでいく。
こうして廃用として出ていく牛を見送るのは
実は牧場を始めて12年目になるけれど
初めてだったのだ。
以前、「ゴーゴー」が出荷された時は
放射能検査屠畜という公のルールには抗えなかったという
自分なりの折り合いの付け所があったけれど、
今度は間違いなく、私たちの判断である。
出荷されていく「いわて牧場」を見送った時
「ああ、歳とったな・・」って、つくづく思った。
ちょっぴり白くなった毛色を見ていると
いつだったか「いわて牧場」が急病で鼻から血を流して
倒れてしまった日の事を思い出した。
もう駄目だろうって言われたのに、翌日には
大復活を遂げてムシャムシャと、まあ、よく食べてたなって。
思わず「おい!」って突っ込み入れちゃったよね。
もしも、自分が「いわて牧場」だったら
今まで一生懸命頑張ってきたのに「それはないでしょ!?」って
思うだろうか・・。
「いわて牧場」はピストルで眉間を打ち抜かれて
ミンチ肉などになる。
私は「いわて牧場」をこのまま育て続けてあげる事は
出来ないのだ。
それは経済動物だから・・。
幸せにしてやる、なんて言ったけど・・。
「いわて牧場」や、今後も必ずなるであろう我が家の牛達に
私は「ありがとう」とか「さようなら」とか「ごめんね」とか
色々、どう言ってこの12年間の気持ちを伝えようかと
考えたけれど、通り一遍の言葉じゃ違う気がした。
今、「いわて牧場」に伝えたい事は
「私、悪い人間にならないからね!」という事。
きっと「いわて牧場」は、誰かに食された時に
その血となり肉となるのだ。
その人が悪い奴だったら、
絶対に嫌だろうから。
がっかりするだろうから。
だから、私は生きている限り、
現役の牛達や子供達にも
「悪い奴になんて、絶対にならないよ」と宣言するよ。
お天道様にも、そう誓うよ。