幸運が訪れた

8月18日は
牛の出産予定日だった。
しかも、2頭も。
同じ日に生まれる予定の子牛達を、今か今かと待ちわびた。
約1年半続く「雄子牛=赤字」という状況下、
生まれてくる子は「女子を!!」と祈る。
妻の友人Mさんが言うには
「仏様を信心して祈れば、きっと空は晴れる」という。
3日坊主の妻は、祈りも3日程しか続けなかったためか、
日頃の行いがイマイチだったのか、出てきた子牛は
2頭とも「男子」だった・・・。
「ああ・・とりあえず、祈っていればよかったな・・・。」
とちょっぴり後悔してみる。
そんな時、八幡平市にある「ルーデンス農場」の方から
思いがけないメールを戴いた。
「我が家は牛の繁殖の為に、雄のジャージー牛を飼っています。
 ところが最近、このジャージー牛が年をとってきましたので、
 新たに雄の子牛を導入したいと考えておりました。
 そこにきて、三谷さんのブログを拝見して、雄子牛の行き場に
 困っておられるそうなので、ぜひ1頭我が家にわけてくれませんか?」
これは、我が家にとって素晴らしくありがたいご提案だった。
雄子牛が生まれても、大した事もしてあげられずにいる。
1頭でも、幸せに育てて貰える農場に送り出せる・・・。
母牛代理人として、これ程ラッキーなお申し出はなかったのだ。
「1頭だけだけど、なんか救ってあげれた気がするよね・・。」
妻も夫も、娘(もとい息子)をお嫁にやる親みたいに
「幸せにおなり。いいかい、あちらのご家族に上手く溶け込むんだよ。」
と雄子牛の門出を祝った。
そして8月28日に
予定通り、ルーデンス農場の方が引き取りにお越しになった。
とても優しそうな感じのいい方に
内心すごくホッとした。
「この子も、大事にしますから。今、我が家にいるオスは体重550kg
 程あるんですよ!」
その言葉を聞いて本当に感謝した。
この子も、きっと大きくなるよ・・。
軽トラに乗せられてキョトンとしている子牛に
「元気で・・。」と声をかけると
子牛は荷台の隅で、真っ黒な瞳を丸くしてみせてくれた。
そして、ゴトゴト揺られながら旅立って行った。
軽トラが見えなくなるまでずっと
手を振った。
大きく手を振りながら、妻は心の中で
「3日だけ祈ったのが、運よく仏様に届いたかな〜。
 はは〜ん、日頃の行いも超いいんだっ!そうに違いない!
 ふふふふふ!」
なんて思ってしまった。
この煩悩丸出し・唯我独尊的想いが
神様仏様にバレていなければいいな、と祈る。