我が家には小さな薪小屋があった(過去形)。
薪は冬前に丸太で購入し、パッカン・パッカンと
斧で割るのだ。
それだけではまだ使えず、割った薪を雨がかからないような
風通しの良い場所で、冬までじっくり乾燥させるのだ。
生木のままストーブで焼いてしまうと、木の水分が
ジメジメと出てきてしまって、煙突がすぐに詰まる上に、あまり温かくない。
乾燥室・薪小屋は、必需品といえる。
2年程前に家の裏にKじいと一緒に建てた。
そんな薪小屋が、この程無残にも雪の魔物の餌食にされてしまった・・・。
夜中に「ズド〜ン!!」という物音がしたが、
三谷家は呑気にも「屋根の雪が落ちたかな〜。あはは。」
なんて、まさかの事態を想像もしなかった。
次の朝、台所の窓から外を見てみると、
薪小屋が見事に折り畳まれていた。
「・・・え?」
暫く唖然として見つめるも虚しく、
大きな雪の塊を載せたまま
寝そべる薪小屋。
まさか雪の魔物が夜中にこんな酷い事をしていたなんて!!!
その日、三谷家では厳かな鎮魂の儀が執り行われた。
「薪小屋・・さようなら。」
「でもさ、夜中だったからまだよかった。
 人が中にいる時に倒潰していたら、きっと死んでるよね!」
と、努めて明るい声で誰かが言った。
「そうだ、そうだ!ははは、そうだ。」
と他の誰かが答えた。
皆、それ以上の言葉は無かった。
寝そべる薪小屋の空の上に
「ぽぢてぃぶ、しんきんぐ〜」という淡い言葉が消えていった。