ななちゃん


我が家には「ななちゃん」という牛がいる。
牧場創業の年に、奥中山のT牧場さんから買って来た。
当初はまだ小さな子牛が5頭だけだったので、
耳標の数字の末が「7」だからという
安直な考えにより「ななちゃん」と名付けられた。
この「ななちゃん」は、かなりの大食漢なのだ。
他の牛達がひとしきり食べ終わり、草の上でごろ〜んと
横になって休んでいる時も、一人「ななちゃん」だけは
ムシャムシャとガッついているという光景をよく見るのだ。
牛舎にいても、他の子たちが「もう満足♡」という顔で
くつろいでいるというのに、「ななちゃん」は一人乾草の中に顔を
突っ込んでガッついているという光景もよく見る。
そんな「ななちゃん」ですが・・・
朝の作業をしていたら、牛舎の床にゴロ〜ンと横たわって
両手足をジタバタさせているではないか。
そうかと思ったら、今度はピーンと四肢を伸ばして、
ビョ〜ンっと立ち上がったと思いきや、
ドッスーンっと座り込むのである。
「な・・なな!?」
たじろぐ周囲。
どうやら、ななちゃんは腹痛に喘いでいるようだ。
「なんか、解らへん。とにかく獣医だよ〜!」
我が家では珍しい急患だ!そしてすぐさま診てもらった!
K獣医さんが診察してくれて、鷹揚に振り返り
「恐らく、おなか痛でしょう。点滴入れときますね〜。」
とサラッとおっしゃった。
「・・・おなか?痛い?」
そんなサラッとおっしゃられてもぉ!!という気分である。
「はい、恐らく食べ過ぎか何かじゃないですか?」
といつも優しいK獣医さんが、
いつものように穏やかな口調でおっしゃった。
食べ過ぎ・・・。
思い当たる節はある。
心当たり、大当たり。
「牛のくせに・・食べ過ぎたのか〜・・」
何だかドッと疲れが出てくるのを感じながら
「大きな病気じゃなくて良かったね」と言った。
その日の夕方には、
「ななちゃん」は再びムシャムシャと
実によく食べていた。
平然としている「ななちゃん」の周辺には
情けないような、可笑しいような
愛しいような雰囲気が
遣り場もなく漂っていた。