さようなら、はいかむりと花


10年の付き合いだった。
イカムリが我が家に来た時は、まだ小さな子牛で
色が灰色だったから「ハイカムリ」と名づけられた。
意地悪で、負けん気が強くて、絶対1番じゃなければ嫌という性格で、
よく喧嘩もした。
よく流血騒ぎも起こした。

そして、8年の付き合いだった花。
スレンダーで大人しい花。
いつも控えめで優しい花。
我が家で生まれた花。
岩泉の牧場の方が「ジャージー牛が欲しいので、売って欲しい」と
お電話を下さったから、きっと大事にしてくれるだろうと思って、
思い切って手放す事にした。
でも、やっぱりやめようかな・・・。
でも、こういう事は持ちつ持たれつだから。
そんな気持ちで最後の搾乳をした昨晩、
皆が放牧地に出て行ってしまった後、
なぜか花が1頭だけ牛舎に戻って来た。
いつもは、そんな事無いのに。
「花・・?」
首にかけた「25番」という黄色い札をカチャカチャ鳴らしながら
しばらく居残って、静かに出て行った。
「花・・もうお別れってわかったの?」
そんな花の姿に家族で泣いた。
子供達が「花は行っちゃいや!花はね、色んな牛の上に乗っかるのが
得意なんだもん!ハイカムリもやだ〜〜!!行っちゃやだやだやだ!!」と
ワンワンと声を上げて泣いた。
もう涙とヨダレと、食べかけの物が顔の上で滅茶苦茶になるくらい
泣いていた。
そして、行く日の朝、
「うちの子達が、もしもこの子達を大事にしていなかったら
 パンチして、取り返しますよって言ってましたからね!」と
手綱を渡した。
「大事にしますから!」という言葉は嘘じゃないと分かる。
「ハイカムリは、強気な子なので、きっとお宅様でも
 ボスとして君臨しますよ、きっと。
 花は大人しいから、きっと搾りやすいですよ・・」
そんな説明をしているうちに、やっぱり泣けてきた。
買ってくれる人が買い辛くなるじゃん!と思いながら
やっぱり顔をくしゃくしゃにして泣いてしまった。
「げ・・げ・・元気でね。」
そういう私の泣き顔を、ハイカムリと花は
じっと見つめながら、トラックに揺られて行ってしまった。
「6番」と「25番」の黄色い札だけが
牛舎に残って、また泣いた。