初雪でした

おお~~・・・

やっぱり、ちゃんと季節はめぐる。

例年よりも20日程遅かったので、

「ひょっとして、来ない?」と期待しちゃったじゃないか!

私の微かな、淡い、儚い、ささやかな、希望をぶち壊された11月24日の朝でした。

 

24日は、目が覚めたら、窓の向こうは一面真っ白で

「今日は自転車じゃ無理だよ~!」と次男がピョコピョコ跳びまわる。

雪を見ると、妙に盛り上がる次男である。

「ゆきだー!ゆきだー!ゆきだぞー!」と

一目瞭然な出来事に歓声を上げながら朝食を頬張る次男に

「ホントだね~。今日は、車で駅まで送ってあげるから。」と、

呑気に答えたのだけど、まさかの事態が待っていた。

 

時間になり、次男と二人で車に乗り込み

牧場から公道へ出る砂利の一本道を走りだした。

一本道は公道に出る手前3mくらいで勾配が少しきつくなる。

その手前でアクセルを踏んで多少勢いをつけて登り切るのがコツだ。

私は右足に少し力を入れて、

「・・・???道がない!!!!!」

慌てて左足に力を込めたので、車はぎゅ~っと音を鳴らして急停車した。

助手席に座る次男は、あんぐりと口を開けている。

「・・・道が・・・ない・・」

 

冬の初めの雪は水気を含んだ重たい雪だ。

そして、我家の砂利の一本道の両側には

数年前から自然発生した柳みたいな木が沢山並んでいた。

その柳みたいな木の枝に、重たい雪がこんもりと積もり、

重みで、枝も幹も、ぐ~~~~んと

道の真ん中に向かって弓形になって雪のアーチを作っていた。

幾重にも重なったアーチが、まるで垂れ幕のように道を塞いでいたのだ。

「ゆっゆっ雪の魔物だ~~~!!ぎゃああ~~~!!」

雪と柳の垂れ幕は2~3mに渡って道を塞いでいて奥が見えないくらいだった。

雪を払えば、枝が元の位置にビョンッ!と戻るかと期待したけれど、

何時間、その姿勢で堪えていたのだろうか?

柳は釣り竿みたいな形のまま固まっていた。

それでは、枝を折って進もうかと思ったけれど

柳は実にしなやかな木なんだな・・。

ぐにっとゴムのようにたわんで、1本も折ることが出来なかった。

結局、ローダーでガシガシ押し退けてわずかに開いた隙間から

脱出するという、まさに物語のような世界観であった。

 

「ひっひっひ~。お前達を永久に雪の世界に閉じ込めてやるよ~ぉ」と

白い魔女の声が響き渡る。

「負けない!なんじゃら、かんじゃらーーーー!!」と

渾身の一撃を食らわす、戦士・三谷。

「うぎゃ~~~!!!」・・・魔女は退散し、

我々は無事に元の世界へと戻って行った。

~雪の魔女編・完~

 

けど、きっとまた、すぐ来る。

冬は長いもの。

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サンレイポケット号

競馬のイメージって、

「オジサンが耳に赤鉛筆を挟んで

スポーツ新聞を左手に、右手で頭を掻きつつ

それはもう、必死の面持ちで馬券を選定している」というもの。

とろこがである。

その昭和なイメージの競馬像が180度回転、

なんというロマン、なんという煌めき!と思うようになった。

 

我家のヨーグルトをもう10年以上も食べ続けてくれている

北海道の馬牧場の方がいらっしゃる。

その方が育てておられるのは競走馬のサラブレットで

牛と馬の違いはあれど、同じ生き物を育てるお仕事の関係から

また、4人の男のお子様を育てあげられた実績から

私は勝手に「先輩」または「お姉さん」と慕っている。

 

馬の世界では日本三大牧場というべく大牧場が存在していて

大牧場では、馬の血統から育成調教まで、その全てを「エリート」として

育てあげる事ができ、当然ながら「勝てる馬」を多数輩出しているらしい。

私の「お姉さん」である、この方の牧場はご家族で経営なさっている。

「エリート馬」とは一線を画す「のしあがり馬」なのである。

 

10月31日に開催された「天皇賞」に

お姉さんの、のしあがり馬「サンレイポケット号」が出走するという。

ご家族経営の小さな牧場から、重賞レースに出馬できるという事が

奇跡に近いのだと、お姉さんは興奮気味に教えてくれた。

そして、私は初めて競馬を観る事となった。(テレビで)

始めて馬券も買った。もちろんサンレイポケット号の馬券だ。

 

テレビでは、1~16の馬達が、ゆっくりと出場してくる。

サンレイポケット号は8番だ。

サンレイポケット号が出てきた瞬間、筋肉の起伏の美しさと

お顔の色気に息をのんだ。

そして、小さな牧場出身のサンレイポケット号が、

大きな牧場のエリート達の中にあって、やたらと肝の据わった足取りなのが

妙にお茶目に見えた。

レースが始まると、勝負はほんの数分で決まるのだけど、

その数分間が、ドラマの中、まさに「ハイライト」の数分間なのだ!!

サンレイポケット号は、4着という快挙を成し得たのだった!!

人気と実力の3頭のすぐ後ろまで迫る、力走だった!!

(勝てるわけないのよ~。出れるだけで、快挙なんだから!って

 お姉さんはおっしゃってたけれど)

 

小さな牧場から、「のしあがった」サンレイポケット号に

すっかり心を掴まれてしまった。

競馬の世界は、生まれ、買い手、騎手、コンディションなどなど

様々なものが一筋の真っすぐな、つながりを見せた時にのみ、勝てるそうだ。

その数分間の煌めきを紡ぎだすための道のりを思った時、

もうすっかり競馬の虜になってしまう。

・・・赤鉛筆とスポーツ紙、買って来よ。

 

 

 

除角。

牛は大人になれば角が生える。

男でも女でも立派な角が生える。

自然界では、強力な武器になるけれど、酪農界ではまさに凶器だ。

我家は放牧しているので、特に危険。

牛達は皆、仲良しだけど、たまには喧嘩もしている。

そんな時に、角があったらお互い大怪我し兼ねない・・とか

牛達は皆、人が好きだから、よくすり寄ってくるけれど、

たまに、行き過ぎた「愛」がさく裂して

殆ど体当たりしてくる事がある。

人は「ぐふっ!」と簡単に吹き飛ばされてしまう。

そんな時に、角があったら致命傷になり兼ねない・・とか。

諸々の都合から、我が家では子牛のうちに「除角~じょかく~」を施している。

これが「やりたくないお仕事ベスト5」に入る、嫌なお仕事なのだ。

子牛の頭には小さな丸い膨らみが2つある。

触るとコツっとしている。

これが「角の芽」で、これらを焼きコテで焼いてしまうのだ。

想像通り、すごい激痛で、大抵の子牛たちは

ひっくり返ってしまう。

しばらく呆然と横たわっている子もいる。

まるで拷問のようで、本当に必要な処置でなければ

ぜひとも、やりたくないのだけれど・・。

だけど、焼く際に、怖がって中途半端に痛い思いをさせると

大人になった時に中途半端な角が生えてしまう。

クルンと羊みたいに巻いた角や、ちょろっと真横を向いた角などで

やる時は、ぐっと一気にやってしまわないといけない。

「いざ、ごめん!」とこちらも覚悟を持って挑む。

除角を施された子牛たちは

暫くの間「人間不信」に陥るのが、また辛い。

頭に黒丸をこしらえた子牛たちは

人を見ると「しえー!!!!」と逃げ回るようになる。

2~3週間もすれば、また仲良くしてくれるようになるから

暫定的悪者なんだけれど、ホントにやりたくないお仕事である。

 

 

 

 

金のヨーグルトのソフトクリーム

長らく、ソフトクリームには抵抗があった。

「甘くしたら、どんな牛乳で作ったって同じものになるやん。」

確かに、その通りだと思っていた。

だから、我が家の牛乳でソフトクリームを作る事には抵抗があったのだ。

我家には

「三谷牧場のジャージー牛乳の「いいとろこ」が

真っすぐに感じられるものじゃないといけない」

という家訓のようなものがある。もはや使命感である。

せっかく、ジャージー達が最高の旨味を湛えた「牛乳」を

出してくれているのだから、その良さを壊す事だけは

絶対にしてはいけないのだ。

それを考えると、やはりソフトクリームは不向きな気がしていた。

 

そんな気持ちがぐるっと急変したのが2020年2月のある日だった。

お取引先様から

「三谷さんのソフトクリームを想像すると、

 あ~~~~~!!!!食べてみたい!!って凄い思う!」

というお言葉をいただいた。

その方がうっとりと妄想して、萌えていらっしゃるご様子から

ソフトクリームの中にも「小さな幸せ」があるのだな~と、

自分が考えているよりも、ソフトクリームには特別な響きがあるのだと思った。

なんとなく自然と

「作ってみよっかな」と思った。

それで、試作を始めたのだけど・・・

やはり「どの牛乳を使っても同じやん」では、ダメだ。

我家のジャージー達の「いいとろこ」が感じられるようなもの

・・となると、やっぱり、そんなに簡単ではなく

試作をしては、試食をする日々で、辛い。

そして、たどり着いたのが

「金のヨーグルト」をギリギリの量まで使用したソフトクリームだ。

金のヨーグルトと同じように、食後の余韻が優しく残り

「三谷牧場っぽい」と思っている。

長引くコロナ禍で、あわやお蔵入りかと思われたが

この度、盛岡市の「トンカツ村八さん」で

金のヨーグルトのソフトクリームをメニューに載せて頂ける事となった。

ソフトクリームを食べると、

ソフトクリームにしかない雰囲気の「小さな幸せ」が

ふわっと浮かび上がってくるような気がする。

村八さんで、召し上がってくれた方が

そんな幸せをふわっと感じて下さったら・・

三谷家一同(牛も含む)本望である。

 

 

 

 

ドンマイ!

「そうだ、穴を掘ろう」

唐突に思い立ち、車庫の後ろ側を掘り始めたのは

昨年秋ごろだった。

コロナ禍で、他に何するでも無いという状況だったので

せっかくなら、有意義な事をしたいと思ったのだ。

有意義な事・・・。

穴は貯蔵庫になる。熟成庫になる。

夢を膨らませて掘り進めたけれど

土質がポロポロしていて、上から土が崩れてきて

想像以上に、なかなか大変な作業だった。

ひいこら、ひいこら、夫と二人で掘り続け

ようやく幅1m程の空洞を完成させた。

そして「ここを雪むろにするぞ!」と

るんるん♪でジャガイモと大根を収納した。

雪むろの中で野菜が糖度を増し、とびきり美味しい芋と大根になって、

我が家の食卓を飾ってくれるだろう・・と

なんて有意義な事をしているのだろうか、と思ったのに。

 

すっかり、その存在を忘れて過ごす事、半年。

「そうだ!我らが雪むろのお野菜はどうなっているかしらん♪」と

掘り返してみた。

お野菜の姿は、どこにも見当たらなかった。

 

どうやら、土に還ってしまったようだ・・。

土の一部に、やや「ナメクジ」のような、ねちょっとした部分が発見された。

「ああ・・きっとこれ、ジャガイモと大根だったんだ・・。」

地道に掘った穴は、完全に崩れて塞がっていた。

 

ドンマイ!って自分に言ってあげる事にした。

 

2021年度 放牧初め!

今年も待ちに待った、この瞬間がやって来た!

放牧初めだ~~~!!!

北東北の冬は長く厳しい・・。

全く不毛だった大地が、突然色めき立つ。

黄緑色の草木が、ぶわ~~~っと

ため込んでいたエネルギーを吐き出し、

ぶわ~~~~っと、一気に芽吹き出すのだ。

そうなると、牛達は黙っていられなくなる。

若草の薫りが鼻先をくすぐると

「MOOOOOO!!!」というか「GOOOOO!!」というか

とにかく「出してくれ~~~~!!」と怒号の嵐となる。

そして、ついに5月5日

牛達の首元に繋いであったチェーンを外してあげた!

「YEAH~~~~~!!!」みたいな声をあげて

我先に飛び出して行く~~~!!!

 


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こんなに大胆で俊敏な動きは、はっきり言って今日だけ。

1年で1回だけ見せてくれる「大喜びの乱舞」なのだ。

さらに牛達は、草が生えていない土部分を見つけて

顔をグリグリ擦りつけたり、2~3頭の牛は土をムシャムシャ食べたりする。

まるで春の大地を味わい尽くせ!!と言うように・・。

「この瞬間を満喫したい!体中で浴びたい!!」という気概が伝わってくる。

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北東北の冬は長く厳しいから、

草木も牛も虫も、必死である。

草木は、ここぞとばかりに成長し、

牛達は、これでもかっていうくらい乱舞し、

虫達は、当たり構わず飛び回る。

この瞬間にこそ、ここに居る意味を見出しているようだ。

この「春」のひとときがあるからだ。

 

ちなみに、午前中に放牧開始したのだが

午後には皆「満腹と満足」でゴロゴロしていた。

半日で、ぐうたらジャージー牛に戻っちゃった。

 

 

 

「ちび」の退屈しのぎ

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長い冬ごもり生活も、あと1か月ほどで終了だ。

奥中山の桜はまだ、ウンともスンとも言わず、

小ちゃな蕾は沈黙状態だけど、

それでも春は近い。

風がほわっといい匂い。

 

そんな春風に刺激されたのだろう。

冬の牛舎生活は「寝る→起きる→食べる→寝る」という

誠に単調な生活で、牛達もすっかり退屈していたみたい。

「ちび」という若い牛が、困った遊びを思いついてしまった。

「ちび」は足元に這わせているゴム管を

つま先でツンツンと突いたり、ゴシゴシと擦ったりして暇を潰し始めたのだ。

そして、とうとうゴム管が裂けて、水が噴き出すという事件となった。

「ちび」の目の前に、即席の噴水がぴ~っと一筋、吹きあがっていた。

 

ふわふわと心地よい春風がそよぐたびに

「ちび」の心はうずうずと振動する。

「あ~、お外で遊びたいな~」って、大きな目で牧草地を見る。

牧草地にはまだ、生き残りの雪塊が点在している。しつこいな。

早く広い牧草地の上を、思い切り走り回らせてあげたいな。

 

春はゆっくり近づいて来る。